行政書士事務所を去るときは
1.僕が行政書士事務所を退職したときの話
前に所属していた行政書士事務所を退職したとき、所長から、ある書類にサインするよう言われました。
それは
退職後の競業を禁止する『念書』でした。
簡単に言うと
- 事務所を辞めた後の一定期間は、他の行政書士事務所に就職したり、自分自身で開業しないことを誓います。
- 事務所で働いていたときに知った顧客情報やノウハウは他に漏らしたり自分の仕事のために使いません。
- 違反した場合は損害賠償請求されても文句は言いません。
という内容の書類です。
行政書士の業界に限った話じゃなく、一般企業でも、従業員が退職するときに使われることがあります。
当時、僕は雇われていたわけじゃなく、個人事業主として合同事務所の中でスペースを間借りして仕事をしていたのですが、その念書を書いて事務所から去りました。
もちろん、念書にサインするしないは自由です。
サインしても、同僚の従業員を引き抜いて独立したり、顧客を奪ったりして雇い主に損害を与えるような悪質なものでなければ、問題ありません。
どこで開業するか、何の職業に就くかは、『職業選択の自由』があるわけですし、そもそも僕は事務所と雇用契約を結んでいたわけでも、給料を頂いて生活を保障されていたわけでもありません。
事務所が僕に念書を書かせるのは、抑止力を期待しているだけ(脅し)にすぎませんでした。
だから、その念書に法的な効力はほとんどないと分かっていましたが、サインしないことで事務所と揉めるのがイヤだったので結局サインしました。
前の事務所の所長には今でも感謝していますが、そのときはガッカリしました・・・。
2.『そんなに信用できませんか?』
もちろん、念書なんか書かなくても、行政書士には守秘義務があるので、お客さんの情報を外部に漏らすつもりはありません。
僕に求められていたのは、『敵対しないこと』だったのです。
それは僕自身が信用されていなかった証でもあるわけです。
お客さんに、退職者から念書を取った方が良いかと相談されたことがあります。
でも、僕はこう答えました。
『念書を取っても、大して法的な効力もありません。そんなものを取らなきゃいけないほど、従業員に不信感を持っているんですか?
念書を書かせたら、従業員は、社長のことを器の小さい人だったと、次の職場や色んなところで言いふらすかもしれません。
それよりも、次の職場がダメだったら、いつでもウチに帰ってこい!と言えるくらいの度量をみせるべきじゃないですか?』と。
お客さんは納得してくださいました。
行政書士事務所に採用されても退職するときは来るでしょう。
そのとき、お世話になった事務所と縁が切れない形で退職できれば一番です。
自分を拾ってくれた事務所ですから、引き継ぎを完了する、退職日まで余裕をもたせるなどの最低限のマナーは守らないといけません。
別れ際は、雇う側も雇われる側も美しくありたいと思うのです。